FX取引と長期投資

最近、人気の投資ブログなどでは為替(FX)取引に関するものが多くあり、また、日本人の友人からも、投資としてFX取引を始めようかと思っている、ということを聞くようになった。「ようになった」というより、2008年のはやり、だったのでしょうか。確かに世界中でこう、株式市場が急落すると、株式じゃない投資先をみつけたくなりますよね。

確かに今のレベルでは円が高いし、国としてすごい債務を抱えた日本の円資産だけにおカネを貯めておいたのでは老後の資産として心配だから、という向きのヘッジに、資産の一部を外貨に変えておくことは意味があるかもしれません。又は、ギャンブル的に短期で取引して、儲かったときの気分を味わうのにも良いかもしれない。

でも基本的に、長期的な資産形成の為の投資としては、FXは向かないと思うのです。

そのほとんど唯一の、でも大きな理由は、為替投資が成長のないゼロサムゲームだからです。

為替は、もちろん投資先として「成長」することはありませんから、上下動があるとしてもいつかは元に戻る(ずっと昔に円が人為的に360円/ドルに固定されていたときからの変化は別だけど、自由市場での話)。とすればゼロサム・ゲームで、為替取引で10%得した人がいれば、10%損した人もいるわけで、平均のゲインはゼロ。平均ゼロであれば、取引コストや物価上昇を引いた後の実質はマイナスになりますね。

もちろん、自分は為替レートの動きの予測に自信があるから、そんなロスは出さない、という向きもあるでしょう。だけど、為替レートの変化には政治・経済・市場の需給など様々な要素が含まれ、それに現在では世界規模の大きなファンドのお金の流れがあるから一昔前の経済の教科書にでてきた利率の差からの計算だけでは役に立たず、レートの動きの予測はプロにでも難しいのです。

それに較べて株式(またはインデックス、ETFなど)はどうか。昨年の米国・新興国を含めての世界的な暴落などをみると「とても外国株投資なんてリスクが大きくて・・・」と思えます。それは確かに、成長の高い新興国ほどリスクも大きいわけだけど、でもFXと較べての大きな違いはゼロサムではない」ということ。長い目で見て株式市場全体は成長しており、各国の市場がどのくらい上がるかというのはごく大雑把に言って、その国の経済成長率、つまりGDPの伸び(これが大まかに言って企業の成長と重なるので)、プラスアルファ(個別株であれば値上がりの他に配当があるので)と見て良いと思います。

例えば昨日、中国のGDPの伸びは6.8%に減速したとの記事があり、

中国国家統計局は22日、2008年10―12月期の国内総生産(GDP)が実質で前年同期に比べ6.8%増えたと発表した。四半期ベースでは7年ぶりの低水準。この結果、08年通年のGDP伸び率は9.0%増と、6年ぶりに一ケタ台に落ち込んだ。

(日経より)

以前の二ケタ台の成長に較べればもちろん、かなりの減速であり、イメージとしてはもう投資先として魅力がないのか、と思ってしまいますね。でも考えてみれば7%は日本の高度成長のさなかと同じくらいで、そのころの日本株(インデックスでも)に投資しそのまま長期保有していれば、20年、30年単位で見れば老後の資金の心配は要らない、という立場でしょう。もちろん株式でもインデックス投資でも新興国でも、投資先やタイミングを間違えればリスクを負うことも、損を出すこともありうるけど、平均リターンが7%であれば17%得した人も、3%損した人も・・・というわけで確率的にはFXのゼロサムゲームより良い訳です。

もちろん昨年の様に中国市場が暴落して、1年で大きな損が出ることもありうる。でもそれは、5年続いた新興国市場のバブル的な上昇の後、2007年の終わりにはPER(株価収益率)が50倍にもなっていた時点の投資であればどんな市場でもリスクは高いです。で、どの時点でどの市場が「適正な価格」かは、今の大変な状況では判断しにくいけれども、長期投資の根本であればやはり、平均がゼロでなく「成長」を織り込んだ対象が有利、と思うわけです。